海外のブドウを使って、日本人の感性で造る自然派ワイン!

新しい概念の“和酒”が誕生。ニュージーランドなど海外を主な拠点に、醸造家・藤巻一臣さんが造る、真に美味しい“日本的なワイン”とは?

醸造所を持たずに世界のあちこちでブドウを仕込む、新しいスタイル。2023年の初ヴィンテージは、日本ワインが好きな人にこそ、味わって欲しい

日本ワイン専門のオンラインショップである『wa-syu』が新しく取り扱いを開始するのは、醸造家である藤巻一臣(ふじまきかずおみ)さんが造る『KAZU WINE』のお酒。2023年が初ヴィンテージとなるこのワイン、実は正式には“日本ワイン”とは呼べない存在なのです。
藤巻さんは、レストランでのサービスマン、日本のワイナリーでの醸造家を経て、独立。“ワイン界のバンクシー”を目指すべく、ニュージーランド、スペインなど世界のあちこちに現れて、めぐりあったブドウや人と自然派ワインを造るというスタイルを取っています。ところが“日本ワイン”とは、日本で造られたブドウのみを使用し、日本国内で醸造されたワインのことを指す区分。国税庁により定められた呼称では、海外で造る藤巻さんのワインは、“輸入ワイン”となってしまうわけです。
それにもかかわらず、日本ワイン専門の『wa-syu』が『KAZU WINE』の取り扱いを決めたのは、藤巻さんの造るワインに、日本人醸造家ならではの確かなこだわりを感じたから。海外の素晴らしい環境でオーガニックに栽培された美味しいブドウを使い、日本人の感性で醸造され、日本食にも合うのが、『KAZU WINE』のワイン。いわゆる“日本ワイン”ではないけれど、日本ワインを愛する全ての人に、ぜひ飲んでみてもらいたい…。こうして、法律で制定されているのとは違う新ジャンル、”日本ならではのワイン”とでも言うべきワインが、『wa-syu』のセレクトに仲間入りしたのです。

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日本でワインを醸造していた頃から、ファンが多かった藤巻さん。努力と経験、ありあまる人間力が、藤巻さんのワインを美味しくしてきた

かつて日本国内でブドウを栽培し、日本ワインを醸造していた藤巻さん。なぜ、新しいスタイルの醸造家として新たな出発をしたのでしょうか?
「もともとレストランでサービスマンとして勤務していましたが、自分が感じたナチュラルワインとの出会いの感動を、お客様にも追体験してもらいたくて。コース料理の一皿ごとに合わせたペアリング、というスタイルを考えて、ソムリエとして提供していたんです。自分は料理人でもないし、ワインの造り手でもないから、すごく勉強して、お客様の嗜好や酒量もぜんぶ頭にたたき込んで…。そうしているうちに、お店は予約で一杯になって人気も出たのですが、後進の育成のために統括職に異動となり、現場でお客様に接する機会が減ってしまったのです。そんなときに、東日本大震災が起きてしまいました(藤巻さん)」。
呆然としつつも、自分にも出来ることはないかと考えた藤巻さん。一年間東北に通って、ボランティアで炊き出しを続けました。
「そうして東北に通うようになってから、一次産業のすごさを知って、魅力を感じ始めていました。いっぽうで大阪でのレストラン立ち上げに関わり、二年近く単身赴任しました。そこで知り合って仲良くなった『フジマル醸造所』の藤丸智史さんに、畑に手伝いに来ませんか、って誘ってもらって。草刈りなんかの農作業をがっつり手伝ったら、とてつもない爽快感を感じたんですよね」。

その後2014年に山形県に移住し、ワイナリーの立ち上げをスタートさせた藤巻さん。初ヴィンテージからナチュラルな造りを目指した藤巻さんのワインは人気となり、日本ワインのナチュラル指向の旗印ともなっていました。「日本でブドウ栽培やワインを造っている間も、ニュージーランドやオーストラリアに行って、その恵まれた天候には魅せられていました。向こうだと太陽もいっぱいだし、雨も少ないので、無理せず無農薬栽培ができる。自分が本当に造りたいナチュラルなワインは、日本だとやはり、なかなか難しい部分もあって…。だんだんと海外に目が向いていったということも確かです」。

体調を崩してしまったことや、母親の介護の問題もあり、2019年には勤めていたワイナリーを離れた藤巻さん。「日本でワインを造ることも考えましたが、当時54歳になっていた自分の年齢を考えたときに、あと何回醸造できるだろう、って。でもブドウの収穫期がかぶらない海外の2拠点、3拠点で醸造すれば、一年に2回も3回も仕込みができる。それに、仲良くなったニュージーランドとかの仲間に、カズ、ブドウを供給してやるからこっちでやれよ、とか言ってもらったり。また、地域の農家さんとの繋がりもできて、頭がよくて面白いナチュラリストたちのライフスタイルにも魅了されました。気が合うなと思ったんです」。

海外を拠点に完成した、とことんナチュラルな『KAZU WINE』2023年の初ヴィンテージ。ラベルも中身も魅力的!

こうして、藤巻さんは自分が目指すナチュラルなワイン造りに着手することになりました。「ナチュラルなワインって、野生酵母を使っていることが必須だと思います。ちゃんとその土地のエコサイクルの中にある酵母で発酵していることが大切なので、すべて足で踏んで、スキンコンタクトをしっかりして、野生酵母を活発に働かせます」。亜硫酸塩を人為的に添加することなく、ブドウのポテンシャルを十分に感じさせるキュベを造り上げることに成功しました。「ワインは、ラベルもすごく大事だと思っていて。このラベルは、自分が好きな本の装丁家、川名潤さんに思い切ってお願いしてみたんです。そうしたら、直接会ってくれて、2時間くらい話したら、“藤巻さんのことは60%くらい判りました”って引き受けてくれて。ラベルや名前にはちゃんと意味を持たせたかったし、アートとしてもすごく気に入っています」。

『KAZU WINE』のロゴマークも川名さんのデザイン。「これがオレの第一印象だったみたいです(笑)。かなり見た目がアウトだから、ロゴも、目線をいれるくらいがちょうどよかったみたいです。何のリクエストもしていないんですけどね(笑)」。

まず、亡くなったママに謝りたい。"I'M SORRY MAMA"

「ちょっとセンチメンタルな名前がついている"I'M SORRY MAMA"ですが…。これは実は、前職のワイナリーを辞めてからすぐに母が亡くなったんです。オレはろくでもない息子だったんで、苦労もかけたし、ありがとうもごめんなさいも言えなかった。とりあえず、「アイムソーリー、ママ」ってちゃんと言ってから、ワインを作ろうっていう感じです。これは温州ミカンみたいな酸があって、そこにピチピチとハーブが香る感じ。亜硫酸塩は全く入っていないです。抜栓して少し飲んだら、冷蔵庫の野菜室に置いておくと、ちょっとマンゴーのような、トロピカルフルーツ的な香りがどんどん出てきて数日間楽しめます。和食とぴったりで、臭みが出がちな魚介類とも合わせられます。もうお寿司なんか、“激合い”です!」。

"I'M SORRY MAMA" WHITE 2022/5,940yen(税込)

マーヴィン・ゲイの名曲にぴったり合う、最高に美味しいロゼを探求した"SEXUAL HEALING"

「"SEXUAL HEALING"は、大好きなマーヴィン・ゲイの名曲のタイトルから。ピノ・ノワール、白ブドウの混醸、あとはメルローと、かなり複雑にアッサンブラージュしていて、いま言った順番でこの味わいが本当に伝わって来るんです。ロゼっていまいちなブドウで造られていることもあるんですが、これは“素敵な音楽を聴き、美味しい料理を食べながら飲む、最高に美味しいワインってどんなのだろう?”と思って造ったもの。お肉系、例えば鳥、豚、ウサギなどにぴったり。もっと身近な簡単な料理でいうと、塩の焼き鳥。鶏皮とかせせり、最高ですね。ハーバルな香りも意識しているので、ネギ、しょうが、各種スパイスやハーブとも反応して、料理を一段、二段と美味しくしてくれます」。

"SEXUAL HEALING" ROSÉ 2022/5,940yen(税込)

"DO THE RIGHT THING"は、魚料理にも合うピノ・ノワール

「良いことをしろ、という意味の"DO THE RIGHT THING"は、スパイク・リー監督の1989年の映画から。ブドウに対して、自然環境に対して良いことをしていこう、っていう、ちょっと自戒の念も込めて名付けました。そういう社会的なメッセージ性から、レジスタンス・アートを意識したラベルになっています。これは、3種類の仕込み方をしたピノ・ノワールで、樽を使わずにアンフォラ(素焼きの瓶)を使って、ハーバルでスパイシーな風味を出したいと思って造りました。もちろん基本的には赤い肉は合いますし、ハンバーグやステーキもいいのですが、まさかの魚料理でも美味しかったりするんです!特に、ハーブやスパイスが乗っているとよりいいですね」。

"DO THE RIGHT THING" RED 2023/5,940yen(税込)

コロナ禍が生んだ、史上発?のリモートワイン。"WHY NOT?"

「この2本は、先に挙げた2022年のヴィンテージとは異なり、2021年のものです。その当時、ニュージーランド在住の親友のワインメイカー、アレックス・クレイグヘッドのところでワインを造ることが決まっていて、醸造計画も立てていました。ところが、コロナ禍の影響で入国も出国も難しくなって。どうしよう、って彼に相談したら、リモートでお前の指示したとおりに造るよ、って言ってくれて。つまり“リモートワイン”ですよね。どのブドウを使うか、いつ収穫するかは任せてくれ、っていうからお願いしたら、なんとアレックスの畑で一番いい古木のブドウを使ってくれていた。自社の特別なワインに使う最高のブドウを、カズのためなら、って使ってくれていたんですよ!ピノ・ノワールとシャルドネの単一品種でアンフォラを使って、すごく美味しいものになりました。"WHY NOT?"っていうのは、このワインはアレックスが全部造ってくれたのに、おれのワインだと言っていいのかな?って聞いたときに、アレックスが返してくれた言葉。“なぜダメなんだ、お前のワインに決まってるだろ?”っていう意味なんです」。


写真左から:
"WHY NOT?" PINOT NOIR 2021/7,700yen(税込)
"WHY NOT?" CHARDONNAY 2021/7,700yen(税込)

「"WHY NOT?"のラベルは、知り合いが飼っている"かしげちゃん"というワンちゃんなんですが、後天的な病気で平衡感覚がおかしくなってしまい、いつも首をかしげてるように見える。それが"WHY NOT?"って言ってるようだったので、採用させてもらいました。
白はシャルドネですが、樹齢の高いシャルドネを、樽香をつけずにアンフォラを使ってピュアに造ると、飲んだ時になんかこう、口の中でキラキラ、キラキラってずっと余韻が残るんです。また赤はピノ・ノワールで、完成してからずっと置いておいたらまた一段と美味しくなっていた。できれば寝かせておいて、特別なときに飲んでもらいたいですね」。

抜栓したら出しっぱなしでもいいから、変化を楽しんでみて欲しい。一時間くらいで、ドラスティックに変わっていくのがこのワイン

「どの銘柄も、あまり深いことを考えずに楽しんで飲んで欲しいです。抜栓後にそのまま出しっぱなしにしておくと、もう1時間ぐらいでドラスティックに変化していくので、その変化もゆっくり味わってみて欲しいですね。余ったら冷蔵庫に入れて、少しずつ飲むのも面白いです。あとは、やっぱり、あくまで料理と一緒に飲んでもらいたい。口の中で料理を頬張ってもぐもぐしているところに、ポンってワインを入れるのがいいんです。今後の活動予定は…ワイン界のバンクシーを名乗っていますので、内緒です。2024年も神出鬼没に活動していきますので、ぜひご期待ください!(藤巻さん)」

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Profile
藤巻一臣(Kazuomi Fujimaki)

1965年、神奈川県生まれ。2005年、銀座にオープンしたイタリア料理店で、支配人兼ソムリエとして勤務。1皿ごとの料理にナチュラルワインを合わせるスタイルを考案した。2007年、横浜・元町中華街にイタリア料理店をオープン。その後の店舗展開に際してゼネラルマネージャーに就任。在任中に6店舗のグループへと成長し、多くの店舗が繁盛店となった。
2015年、レストランマネージャーからワイン醸造家へ転身。山形県南陽市に単身移住し、休眠中の耕作放棄地でぶどうの栽培を開始する。2017年、ワイナリーを設立。人為的な関与を極力行わずに、ぶどうが持つ本来の力を最大限に活かしたワイン造りを行った。現在、独立して新ブランド「KAZU WINE」を設立。世界中のワイナリーを訪れて製造したワインを日本へ逆輸入し、リリースを始めた。

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KAZU WINE(カズ ワイン)は、自社の畑やワイナリーを所有しないワインブランド。世界中にある友人たちのワイナリーを訪れ、地元のぶどうを仕込んで造ったナチュラルワインを、現地から日本へ逆輸入してリリースを行っている。

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